民泊は不特定多数の人が出入りするため、「特定防火対象物」とされています。
特定防火対象物は不特定多数の人が出入りする建物ですので、火災が発生した場合に人の命が危険にさらされる可能性が高いと言えます。
ですから民泊を始めるためには、ホテルや旅館などと同じ消防設備を設置しなければいけません。
しかし、2階建てや平屋の戸建のような小規模の施設であれば、延焼や逃げ遅れの危険は小さいといえます。
そこで特定防火対象物の消防設備には「特定小規模施設」には、法令で定められた簡易的な消防設備の設置でよいとされています。
(特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令)
一般的な民泊の消防設備に関しましては『民泊の消防設備』をご参照下さい。
特定小規模施設とは
ホテルや旅館、民泊で延べ床面積が300㎡未満のものは「特定小規模施設」になります。
特定小規模施設の場合は、あとから説明しますように無線式の自動火災報知機で対応ができますので、かなり設備費用を抑えることができます。
但し、「特定一階段等防火対象物」に該当する建物は、特定小規模施設にはなりませんので注意が必要です。
それではあなたの民泊施設が「特定小規模施設」に該当するかを知るために、特定小規模施設の例外である「特定一階段等防火対象物」とはどのようなものなのかを判りやすくご説明したいと思います。
特定一階段等防火対象物とは
300㎡未満のホテルや旅館、民泊であっても特定小規模施設にならない場合があります。
それがこれからご説明する「特定一階段等防火対象物」です。
「特定一階段等防火対象物」に該当する建物は、特定小規模施設にはなりません。
300㎡未満であっても通常の施設と同等の消防設備を求められる「特定一階段等防火対象物」に該当するには2つの条件があります。
2つの条件が両方とも当てはまるものが「特定一階段等防火対象物」となります。
どちら1つしか該当しない場合は「特定一階段等防火対象物」にはなりません。
【条件1】地下階又は3階以上の階に民泊施設がある
火災が発生した場合、1階であれば急いで外に避難することができます。
2階の場合、怪我をするかもしれませんが、窓から飛び降りて避難することも可能です。
このように1階や2階に滞在していて火災が発生した場合は、他の階よりも比較的避難が容易に出来ると言えます。
しかし1階で火災が発生した場合に地下に滞在していたらどうでしょうか。
また1階や2階で火災が発生した場合、3階以上に滞在していたらどうでしょうか。
地下や3階以上の階から避難する時に屋内階段が1つだけしかない場合、階段が煙突のような役目になって火や煙に包まれて、その階段を使って避難することが出来なくなる危険があります。
このように地下階や3階以上は1階や2階よりも避難が難しいため、「地下階又は3階以上に宿泊施設がある事」が「特定一階段等防火対象物」の条件の1つになっているのです。
【条件2】屋内階段が一つしかない
先程ご説明しましたように、屋内階段は煙突のような役目になって火や煙に包まれて、その階段を使って避難することが出来なくなる危険があります。
そうなると屋内階段が一つしか無い場合、唯一の避難経路が火や煙で塞がれてしまうことになります。
ですから「屋内階段が1つしかない事」が「特定一階段等防火対象物」のもう1つの条件になっているのです。
もし階段が1つしか無い場合でも、屋外階段や火や煙が入らないような構造の特別避難階段の場合は「特定一階段等防火対象物」にはなりません。
特定小規模施設用自動火災報知器とは
一般的な自動火災報知機は、火災時に発生する熱や煙を感知する「感知器」、感知器からの信号を受信してブザーをならす「受信機」で構成されています。
この場合、受信機から感知器への配線工事が必要になるのですが、この配線工事で大きな費用がかかる場合があります。
特定小規模施設用自動火災報知機は無線式のものなので、一般的な自動火災報知機のような受信機への配線工事は必要ありません。
一つの感知器が火災を感知すると、他の感知器へ電波を飛ばして、全ての感知器で音声警報が鳴るような仕組になっています。
自動火災報知機の設置基準
感知器の設置は、特定小規模施設であっても300㎡以上の施設と同じ基準で設置しなければいけません。
天井高4 m未満の場合、煙感知器が150㎡毎に1台、熱感知器が40㎡毎(耐火建築物は70㎡毎)に1台設置が必要です。
煙感知器はリビングや寝室などの部屋に設置します。
熱感知器は主にキッチンや押入れ・クローゼットなどの収納部分に設置します。
設置基準は「居室および2㎡以上の収納室」とされていますので、2㎡未満の収納部分には感知器の設置義務はありません。
自動火災報知機の感知区域
感知区域とは、火災が発生した場合に煙感知器や熱感知器が有効に火災を感知できる区域のことです。
壁または取付け面から 0.4 m 以上(差動式分布型と煙感知器は 0.6 m 以上)突き出した「はり」などによって区画されてた部分は1区域になります。
天井高4m未満で各部屋の広さが30㎡の民泊の一室を例にみてみましょう。
煙感知器を設置する場合、150㎡毎に1台の設置が必要になりますので、30㎡の部屋の場合は1台の設置になります。
しかし、その部屋の天井から60cm以上の「はり」があるような場合は1台では火災を有効に感知できないということになり、2台設置しなければいけません。
煙探知機の場合、60cm未満の「はり」であれば感知に問題無いと判断されます。
キッチン等につける熱感知器の場合は、40㎡毎に1台設置が必要になりますので、30㎡の台所であれば1台の設置になります。
しかし、熱感知器は天井から40cm以上の「はり」がある場合には2台設置が必要になります。
60cmと40cmの「はり」がある場合は3台設置が必要になります。
その他の必要な設備
規模や建物の構造によって必要な設備がかわってきますが、ここでは一般的な特定小規模施設で最低限必要となる設備をご説明したいと思います。
避難口誘導灯
避難口誘導灯というのは緑の背景色で、緑のピクトグラム(人)が白のドアに向かって避難しているデザインのものです。
みなさん一度は見られたことがあるのではないでしょうか。
避難口誘導灯は「屋内から直接地上へ通じる出入口」や「直通階段の出入口」の上部に設置しなければいけません。
民泊の場合、「屋内から直接地上へ通じる出入口」は玄関、「直通階段の出入口」は屋外へ繋がっている階段に通じる出口のような場所です。
階段通路誘導灯
階段通路誘導灯とは、停電時に規定の明るさ以上で避難経路である階段を照らす機能がある避難誘導のための電灯のことです。
誘導灯と聞くと避難口誘導灯のような人が非難するデザインの標識をイメージされるかもしれませんが、見た目は普通の蛍光灯のようなものです。(LEDタイプの丸いものや正方形のものもあります)
見た目は普通の蛍光灯ですが、本体にバッテリーをもっているため、停電になっても消えることはありません。(あくまで避難するための間に消えないような設定ですので、長時間停電してバッテリーが切れた場合は消えます。)
階段通路誘導灯設置には一般的には配線工事を行う必要があります。
階段通路誘導灯は消防法で規定されている防災設備ですが、これと似たもので建築基準法で規定されている「非常灯」というものがあります。
両方の基準を満たしたものであれば、「階段通路誘導灯」と「非常灯」を兼用することがきる場合もあります。
漏電火災警報器
壁や天井の下地にメタルラス、ワイヤーラス、ラスボードといった素材を使用して、その上にモルタルを塗って仕上げたものを「ラスモルタル」といいます。
民泊施設がラスモルタル工法で作られている建物の場合、漏電火災警報器の設置が必要になる可能性があります。(間柱若しくは下地を準不燃材料で造った場合などの例外があります)
また、民泊施設の契約電流が50A以上の場合も漏電火災警報器の設置が必要になります。
消火器
「ホテルや旅館であれば絶対に消火器はいるでしょ?」と思われるかもしれませんが、実は条件によっては消火器の設置義務はありません。
基本的には、延べ床面積が150㎡未満のホテルや旅館、民泊には消火器の設置義務はありません。
ただし、150㎡未満であっても無窓階(避難上又は消火活動上 有効な開口部を有しない階)や地階(天井高の1/3以上が地盤面下 にある階)や3階以上の階には消火器の設置義務がありますのでご注意下さい。